活版印刷とは?

はじめに

活版印刷は、現代のデジタル印刷技術が主流となる中、独特の魅力を持ち今も人を魅了し続けています。凸版印刷とも呼ばれ、インクを塗った凸部を紙に押し付けることで文字や図柄を転写するこの印刷技術は、15世紀のヨハネス・グーテンベルクによって発明(発祥は中国だと言われています)され現代でも引き継がれています。この記事では、活版印刷の歴史や仕組み、その魅力について詳しく解説させていただきたいと思います。

活版印刷の歴史

起源について

活版印刷の起源は、11世紀の中国。北宋の畢昇が膠泥活字を使用し、後に王禎が3万文字にも及ぶ木製の活字を使って印刷を行った記録が残されているそうです。また、日本でも法隆寺に保管されている「百万塔陀羅尼」は、天平宝字8年(764年)に印刷された世界最古の印刷物として知られています。

ヨーロッパへの伝播と発展

ヨーロッパにおける活版印刷の発明者として知られるのは、ドイツのヨハネス・グーテンベルクです。1440年頃に金属活字を用いた印刷技術を開発し、1455年には最初の印刷書籍である「グーテンベルク聖書」を完成させました。ほとんどのページが42行の行組みされており「42行聖書」とも呼ばれているそうです。

そして同時にこの技術は書籍の大量生産を可能にし、ヨーロッパ中に広まることとなりました。

これにより、書籍は安価に大量生産され、知識の普及と情報の伝達が大きく進展しました。特に宗教改革やルネサンスの時代において、活版印刷は重要な役割を果たしました。例えば、ルターの「95か条の論題」は、活版印刷によって広く配布され、宗教改革の推進力となったと言われています。

私たち日本では

日本に活版印刷が伝わったのは13世紀末、江戸時代の直前から初期にかけて、キリシタン版や嵯峨本などの印刷物が登場したのが始まりです。江戸時代中期には、日本初の蘭和辞典『ハルマ和解(はるまわげ)』が活版印刷で印刷され、活版印刷が普及し始めました。

活版印刷の仕組み

基本的なプロセスについて

活版印刷の基本原理は非常に単純です。小学生の頃に図工の時間で習った版画とほぼ同じです。ちょっと違うのは、金属や木製の活字を組み合わせて版を作り、その版にインクを塗ること。そして、紙に強い圧力をかけてインクを転写します。

一連の手順について

1、「組版」を行います。金属や木製の活字を使用して、印刷する文字や図柄を組み合わせます。この工程では、デザインやレイアウトが決定されます。
2、「インキング」インクを凸版に均等に塗布します。
3、「印刷」インクが塗られた凸版を紙に強い圧力で押し付けます。この時、印刷面に凹凸が生じ、独特の風合いが生まれます。現在の活版印刷の魅力とされているのが、この印圧によって生じる手触りや高級感だと思います。ただ、活版印刷が全盛期の時代では、表裏に印刷する必要があるため、凹ませることは失敗とされてきました。
4、「乾燥」しっかりと乾燥させないと指についたり、汚れになってしまうため気をつかう工程でもあります。

現代の活版印刷技術

金属や木製の活字を組み合わせて版をつくる工程でしたが、現在ではデジタルデータから版を作成することが一般的です。例えば腐蝕(エッチング)と呼ばれる技法でデザインデータから金属板を作成したり、露光などの技術を使い樹脂版を作成して印刷する手法が主流です。

デジタル印刷が普及し、活字を利用する活版印刷は需要が少なくなった現在では活字を保有している印刷所はどんどん減ってしまいました。少し寂しいことですが、デジタルでデザインの幅が広がったというメリットもあります。

活版印刷の魅力

独特の風合い

活版印刷の最大の魅力は、独特の風合いです。印刷時に圧力がかかるため、印刷面には凹凸が生じ、手作り感のある温かみのある仕上がりになります。また、デジタル機械と異なり紙を選ばないので質感のある紙を使用できることも大きなポイントでしょう。この特性を活かし、名刺や招待状など大切にしたい特別な印刷物におすすめしたいと考えています。

文字の重厚さと力強さ

活版印刷では、文字のエッジが強調され、重厚で力強い印象を与えます。同じデザインでもオフセット印刷とは異なる独特の雰囲気が生まれ、特に名刺などのビジネスツールで好まれています。


一つ一つが同じようで違う

活版印刷は、一つ一つの印刷物が微妙に異なるため、手作り感があり唯一無二の作品として味があって好まれます。また、インクの色や用紙の選択肢が豊富で、カスタマイズの幅が広いことも魅力の一つです。

間違えやすい加工「箔押し」との違い

活版印刷とよく似た加工方法に「箔押し」があります。どちらも版を使用し、圧力をかけて仕上げる点では共通していますが、箔押しは圧力と熱によって箔を定着させる点で異なります。箔押しはその名の通り箔を利用するため、金や銀、ホログラムといった特別なテクスチャも存在します。また、インスタグラムやピンタレストを見てみると活版印刷と箔押しを合わせて利用するような豪華な作品も見受けられます。

活版印刷が活躍する場所

ビジネス用途

活版印刷は、その独特の風合いと重厚感から、ビジネス用途で使用されることが多いです。特に名刺やショップカード、招待状など、高品質で特別感のある印刷物に適しています。活版印刷を用いることで、他とは一線を画す印象深いデザインを実現できます。特に名刺には強い印象を残すことができるため好んで使用する方もいらっしゃいます。また、企業のロゴやブランディングにおいても、活版印刷はその特別感と高級感を強調するための有力な手段となっています。

アート作品やクラフト作品に

活版印刷は、アート作品やクラフト作品にも広く利用されています。活版印刷の独特の風合いを活かして、個性豊かな作品を制作しています。特にポスター、絵葉書、アートブックなど、視覚的なインパクトを求められるアイテムが目立ちます。活版印刷のイベントを訪れた際は、たくさんの作品に目を奪われました。ほかには、私たちの活版印刷眼鏡と猫ノ舎のようにアクセサリーなどの作品に使用するなんていう例も少しですがあるようです。

SDGsの視点での活版印刷の未来

持続可能な印刷技術としての活版印刷
近年、環境への配慮が求められる中で、活版印刷は持続可能な印刷技術として注目されているそうです。活版印刷は、再生可能な材料(例えば再生紙や植物由来のインク)を使用することで、環境負荷を低減することができます。

また、活版印刷は、手作業を中心とした技術であるため、機械による大量生産と比べて環境への影響が少ないとされています。こうした特性から、エコフレンドリーな印刷技術として見直されており、持続可能なデザインやエコロジカルなプロジェクトにおいて活用されることが増えています。近頃では紙が土に変えるとそこから草花の芽がでるなんていう紙もあるくらいです。

2つの誤解、活版印刷は高くて古臭いのか?

活版印刷は高品質で特別感のある印刷物を提供するため、一般的にオフセット印刷やデジタル印刷よりもコストが高くなることがあります。ただ、ケースによっては活版印刷のコストが安く済む場合もあるのです。例えば、少部数の印刷やカスタマイズされたデザインの場合、活版印刷はコストパフォーマンスの面で優れていることがあります。また、結婚式の招待状や限定版のアートブックなど、特別な機会や用途においては、その価値がコスト以上に高く評価されることもあります。

「活版印刷は非効率で時代遅れだ」という人もいらっしゃいます。ですが、私たちは独特の魅力や技術的な進化により、現代においても多くの人々に支持されていることを知っています。特にデジタル技術との融合により、新たな可能性が広がっており、活版印刷は今後も愛されていくと確信しています。

活版印刷のまとめ

活版印刷は、長い歴史と多くの技術革新を経て、現在も多くの人々に愛され続けています。

この記事を通じて、活版印刷の魅力や歴史、技術について深く理解していただけたなら嬉しい限りです。活版印刷の魅力を多くの人々に伝えていきたいと思います。



この記事を書いた人

眼鏡さん

活版印刷眼鏡と猫ノ舎の中のひと。試行錯誤しながら活版印刷を楽しんでいます。デザインが好きでアナログが好き。猫派です。